「お母さん、また来るね」菜来軒と“シマ中華”への想い

一人で町中華を巡るようになって、まだ始めたばかりのころ、錦糸町の菜来軒に出会った。
その頃から、静かなお店や時間が好きで、通し営業のお店では、アイドルタイムを狙って入ることが多かった。初めて扉を開けた日のことは、今でも忘れられない出会いだった。

静かな店内。カウンターの端の席で、ウトウトと眠る小柄な女性が座っていた。
少し迷いながらも声をかけたのが、私と菜来軒の女将さんとの出会いだった。

菜来軒の女将さん

女将さんは奄美群島の加計呂麻島の出身。私の母が奄美出身だという話をすると、距離が少しずつ縮まり、娘のように接してくれるようになっていた。そのころ、女将さんは旦那さんを亡くされたばかりで、少し元気がない様子だった。
女将さんから見た私も、同じように寂しさがのぞいていたかもしれない。
いつも店に行くと、家族のことやシマのことなど、たわいもない話で盛り上がった。

奄美では、人と人との“シマ”のつながりや絆を大切にする。
血がつながっていなくても、家族のような距離になる。
女将さんにとっても、シマの娘はそんな存在だったのだと思う。

奄美は、私にとって特別な場所。
以前、奄美大島の町中華をテーマに記事を書いたことがある。
そのときに使った「シマ中華」という言葉も、奄美や菜来軒で感じてきた、この距離感から生まれた呼び方。

メディアに取り上げられ、菜来軒はいつの間にか人気店になった。
少し遠くなったような寂しさもあったけれど、元気な女将さんの姿を見るたび、それ以上に、うれしさの方が大きくなっていった。

「お母さん、また来るね」

いつも帰り際にそう言って、店を出る。
また必ず来るから、それまでお元気でいてね。
そんな意味も込められている。
菜来軒は、私にとって“シマ”――ふるさとのような場所。

初めてお母さんと出会った日、約束したあの言葉はお互いに忘れていなかった。
この気持ちを、ちゃんとカタチに残しておきたいと思い記事に書きました。
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奄美大島の海岸

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